中国における、竹資源の製紙産業への活用戦略

中国における、竹資源の製紙産業への活用戦略

急速な経済発展を遂げた中国は、今や世界最大の紙の生産国でもあり、消費国でもあります。そうした背景に伴って、中国では製紙産業の原材料に大きな変化が起きており、竹パルプが使われるようになり、生活者からの支持を集めているようです。

そこでこの記事では、製紙の資源としての竹の有効性、また中国はどのように竹パルプ生産や技術開発を進めようとしているのか、ノースカロライナ州立大学の資源生物学科から出された研究論文を和訳して転載します。(以下、和訳全文を転載)


世界のパルプや製紙の新たな資源としての竹

竹は広く分布し、生育の早い植物として、少なくとも東アジア地域では、木材資源の不足を緩和するために、パルプや製紙の重要な原料として浮上してきている。パルプ原料としての竹の欠点を克服し、竹パルプ製品の品質を向上させるために、シリコン除去などの新技術が開発されている。中国の竹パルプ生産能力は、今後も増加し続けると考えられる。

 

竹は、製紙のための重要な非木材繊維原料である

竹は亜熱帯・熱帯地域に広く分布している。図1(Mera and Xu 2014)に示すように、竹の主な生産地は、アジア太平洋地域(I)、米州地域(II)、アフリカ地域(III)である。世界の竹林地の約8割がアジア・太平洋地域であり、さらにインドと中国を合わせると、アジアの竹林の約7割を占めている(Mera and Xu 2014)。また、木材資源の乏しい発展途上国の多くは、豊富な竹資源を持っている。森林保全や持続可能な経済発展の観点から、竹は、特にこれらの発展途上国において、パルプや製紙用の非木材繊維原料として重要な役割を果たしている。実際、インド亜大陸や中国では、竹は製紙産業に欠かせない繊維原料となっている。

図1 世界の竹の分布 世界の竹の分布(提供:ノースカロライナ州立大学 資源生物学科)

竹は木材に比べて成長サイクルが短く(3~5年)、自己再生が可能で、維持・再生コストが低いという利点がある。「第二の森」と呼ばれるように急速に成長する植物である竹は、セルロースを57~65wt%、ヘミセルロースを27~30wt%、リグニンを4.9~5.0wt%含んでいる(Wei et al. 2016)。その化学組成を考慮すると、竹は、稲/麦わら、葦、バガスなどの他の非木材繊維と比較して、パルプや製紙のためのより優れた繊維原料である。竹繊維は、いくつかの繊維特性、すなわち繊維長、アスペクト比、繊維状細胞壁の空洞率において広葉樹繊維に匹敵する。

 

竹のパルプ化と製紙の課題

竹をパルプ・製紙原料として利用するためには、竹林の植林、竹原料の伐採、保管・輸送、竹パルプのアルカリ性使用済み液回収工程の技術的な課題など、多くの課題がある。また、原料供給に関しては、竹は木材原料に比べて伐採、保管、輸送のコストが高い。また、竹チップの特殊性や供給・輸送の問題から、竹パルプ工場の生産規模は木材パルプ工場に比べて小さいのが一般的である。また、竹チップの価格は、市場の変動に頻繁に影響される。また、竹パルプの繊維原料費は、生産コスト全体の60%にもなることがある(Wu 2016)。この問題に対処し、竹チップの安定供給を確保するために、パルプ工場は自社の竹農園を設立し、現地の竹農家と長期契約を結ぶことができる。

竹は木質材料に比べて灰分やシリコンの含有量が比較的高い(Sharma et al. これは、アルカリ性使用済液の回収プロセスや、溶解パルプなどの一部の高品位パルプ製品の品質に悪影響を及ぼす可能性がある。パルプ原料としての竹の欠点を克服し、竹パルプ製品の品質を向上させるために、シリコン除去/シリコン保持などの新技術が開発されている(Xu et al. 2015, 2016)。竹パルプと竹パルプ製品の好ましい例は、中国貴州省のChitianhua社で見ることができ、強黒液濃度は70%に達し、アルカリ回収率は92%以上である。

 

中国における竹のパルプ化の展望

急速な経済発展に伴い、中国は過去10年間で世界最大の紙の生産、消費国となった。それと同時に、中国では紙パルプ産業の原材料に大きな変化が起きている。中国の紙パルプ産業における非木材繊維の割合は徐々に減少しているが、中国では木材資源が不足しているため、非木材繊維の利用が依然として重要である。中国の竹パルプの総生産能力は2017年に240万トンに達し、その約80%が家庭紙グレードの生産用である。注目すべきは、未晒しの竹パルプから調製された家庭用紙のグレードは、生活者に歓迎される製品となり、中国では商業的成功を収めていることである。

パルプ生産への竹の利用を促進するために、中国の地方政府は竹の植林や輸送条件の改善を支援している。2016年には中国製紙協会の下に竹パルプ作業委員会の特別小委員会が設立され、竹パルプ技術の開発を加速させ、製紙工場と研究機関の連携を強化している。

2017年の中国製紙年鑑によると、中国四川省ではいくつかの新しい竹パルプ・製紙プロジェクトが計画されている。これらには、Yongfeng Paperの2.0×105t/aの統合型竹パルプ・製紙工場、Yibin Paperの2.5×105t/aの統合型竹パルプ・製紙工場、Chinese Bamboo Paper Co, Ltd.の1.5×105t/aの統合型竹パルプ・製紙工場が含まれる。報告されているように、中国竹紙有限公司の総生産能力は、今後数年で年間1.0×106トンに達する予定である。これらの新しい竹のパルプ化プロジェクトは、中国の竹資源を紙パルプ産業に活用する戦略を反映している。(和訳転載ここまで)

 

この論文からわかるように、竹は、特に木材資源の乏しい発展途上国に広く分布しており、従来の紙パルプに代替する重要な資源ではあるものの、木材に比べて伐採、保管、輸送のコストが高いなど、多くの課題があるようです。

しかし、木材資源が不足する中国において、非木材繊維である竹が活用されていくことは、例えば日本の放置竹林のように、伐採されても出口がないという課題解決のひとつの方法になりうるのではないでしょうか。