「木」ではなく「草」である竹は、本当に二酸化炭素を吸収するのか?

「木」ではなく「草」である竹は、本当に二酸化炭素を吸収するのか?

竹の大きな特徴のひとつは、成長が早いということです。そして「木」ではなく「草」である竹は、一般的に樹木と同様に大気中の炭素を吸収・隔離する能力があると考えられていますが、実際のところはどうなのでしょうか。

国際竹籐ネットワーク(INBAR)による竹の有効性に関する報告書 「Bamboo and Climate Change Mitigation」において、竹の成長、管理、利用が竹の炭素吸収の可能性にどのような影響を与えるのか、これまでに行われた研究が分析されています。

そこでこの記事では、上述の報告書より、竹の炭素吸収に関する研究結果を引用して紹介します。


なぜ「竹」という素材に注目したのか?

気候変動の文脈において竹をどのように見るべきか、また竹という素材になぜ着目したのか、報告書では以下のように示されています。(以下引用)

“大気中の高濃度の二酸化炭素を緩和するために利用可能な選択肢の中で、森林や森林管理の改善は、非常に注目されている。世界的な森林破壊は、二酸化炭素排出源の中でも最も重要なものの一つだが、他の選択肢に比べて比較的簡単に止めることができると考えられている。森林は、森林面積の拡大や森林管理の改善などを行うことで、重要な炭素吸収源としての役割を果たすことができる。

植物学的に、竹は木質の草であって木ではないが、竹林は森林と同様の特徴を持ち、炭素循環の中での役割を果たしている。竹林は光合成によって炭素を隔離し、竹の繊維と竹が成長する土壌に炭素を閉じ込めているが、竹林と森林は、重要な違いがある。

管理された竹は、初期の成長速度が早いうえに、毎年の再成長率も高く、個々の竹稈(ちくかん、幹に当たる部分)のライフサイクルは5年~10年と、比較的短い。また、竹から得られる製品は、一般的に木材林から得られる製品に比べ、耐久性の低い用途に使用されているため、INBARとパートナーは、竹が炭素貯蔵の観点からどのように作用をしているのか、また炭素貯蔵の性能において樹木と比較してどうなのかを明らかにすることに着手した。”


竹林が管理されていなければ、炭素隔離の効果は低下する

報告書によると、孟宗竹(もうそうちく)林と中国のモミ植林の炭素蓄積量は同程度であることが確認されていますが、竹林が伐採管理をされていなければ、炭素隔離の効果は著しく低下することも示しています。(以下引用)

“中国南東部の亜熱帯の孟宗竹(もうそうちく)林と、急成長している中国モミ植林の炭素隔離の比較分析から、密度3,300本/haの孟宗竹林と密度2,175本/haの中国モミ植林は、急速な成長率と気候条件に関して同等の特徴を持っていることがわかった。この研究では、両種の成長パターンを分析し、動的バイオマスモデルと炭素モデルを使用して、炭素吸収の相対的な割合を確認した。その結果、両種の炭素吸収率は同等であるものの、異なるパターンをたどっていると結論づけられている。

 - 新たに植林された孟宗竹林の年間正味炭素貯蔵量を計算したところ、5年目に5.5t C/haのピークを示した。孟宗竹は、最初の5年間はモミよりも多くの炭素を貯蔵していたが、その後の5年間は中国モミよりも少なかった。通常の管理方法(一般的な伐採方法と組み合わせた立木と土壌の管理を含む)では、孟宗竹林は、最初の30年間の伐採ローテーションと2回目の30年間の伐採ローテーションの間に、中国モミ植林と同等かそれ以上の量の炭素を隔離していたことがわった。

- これに対して、竹林が伐採管理されていなければ、炭素隔離の効果は著しく低下する。中国モミ植林の最初の30年間と比較すると、竹林は中国モミ植林が炭素を隔離した総炭素量の30%程度しか隔離していない。つまり、管理されていない竹の植林地では、中国モミの方が竹よりもはるかに炭素の隔離効果が高い可能性が高い。”

炭素吸収力については、ユーカリ植林と同じ地域に共生する真竹林の比較が行われました。その結果、同等の炭素隔離能力と性能があることが示されています。(以下引用)

“熱帯条件については、ユーカリ植林の炭素吸収能力を、同じ地域にある共生の真竹と比較した。これは、どちらも成長が早く、生育の気候条件が似ていることから、比較に適しているとされたものである。本研究では、それぞれの成長パターンを分析し、相対的な炭素吸収能力を計算した結果、ユーカリ植林と真竹林は、同等の炭素隔離能力と性能を有していることが示された。

- 竹の伐採を毎年するという管理方法では、ユーカリ植林は、伐採されて新しいユーカリの植林に置き換わるまでの最初の5年間、竹林のパフォーマンスを上回っていた。2年目には、真竹がユーカリ植林を凌駕するようになった。

 - その結果、熱帯地域の真竹は、ユーカリと同等以上の炭素を隔離する可能性が高いことが示された。また、文献から計算・収集したデータのレビューでは、亜熱帯地域に生育する種よりも熱帯地域に生育する種(竹と樹木の両方)の方が、より多くの炭素が隔離される可能性が高いことが明確に示されている。”


竹の炭素蓄積量は、気候の影響も受けている

さらに竹の炭素蓄積量は、気候の影響も受けていることも指摘しています。(以下引用)

“孟宗竹の植生(低木種や他の混合植生を含む)の炭素蓄積量は、27~77 t C/haの範囲内であることが示された。炭素の大部分は、84-99%を占めるアーバー層に隔離されているように見える。低木層と草本層は、特に集中的に管理された竹林では、非常に小さな貢献を占めている。土壌を含む生態系全体を見ると、孟宗竹林の生態系の炭素貯蔵能力は102t C/haから289t C/haと報告されており、そのうち19~33%が竹稈と植生層に、67~81%が土壌層(根茎、根、土壌炭素)に貯蔵されている。このことから、土壌層の炭素含有量は植生層の約2~4倍である可能性が高いことが示唆された。竹の生態系は、他の森林タイプ(122~337 t C/ha)と比較して、炭素蓄積量が同等かやや低い(102~288 t C/ha)ことがわかった。竹林の炭素蓄積量は、明らかに気候要因の影響を受けている。浙江省よりも気候が竹の生育に適している福建省の竹の炭素蓄積量は、19年目のマツ、15年目の中国モミを上回り、広葉樹林(262.5 t C/ha)や熱帯林(230.4 t C/ha)と同程度の炭素蓄積量を示した。”

炭素貯蔵に及ぼす管理体制の影響について、管理した場合には根茎、根、土壌中の炭素量が低くなる可能性があり、今後も研究が必要であるとされています。(以下引用)

“孟宗竹の集中管理は、地上のバイオマスの炭素貯蔵量を増加させることができるようである。また集中的に管理した場合、根茎、根、土壌中の炭素量が低くなる可能性があることも指摘された。孟宗竹の炭素貯留量に対する管理方法の役割については、今後の研究が必要である。”


化石燃料の代替としての竹製品の可能性

また化石燃料の代替としての竹製品を活用することは、気候変動の緩和に役立つことが示されています。(以下引用)

“他の林産物と同じように、竹製品は生物学的に悪化するか、または燃やされるまで炭素含有量を保つ。竹には高い引張力、柔軟性、硬度といった特徴があるが、竹製品は多くの木製品ほどの耐久性はないと論じられている。しかし、これは技術的な制限よりも習慣によるものと思われ、近年では多くのより耐久性のある竹製品が市場に入ってきた。炭素貯蔵を最適化し、長期化するための重要な課題であるため、より高品質で耐久性のある竹製品を生産するための投資は継続する必要がある。炭素の長期貯蔵は、竹の稈が建築材料、パネル製品、家具などのライフサイクルの長い耐久性のある製品に加工された場合にのみ可能である。

代替手段としては、化石燃料の代替としてのバイオエネルギー資源としての竹の利用や、バイオ炭を含む木炭製品の利用がある。このような目的のための竹の管理と利用促進と開発は、気候変動を緩和するためのさらなる機会を提供することができる。”

そして本研究の結論では、竹林の適切な管理と竹資源の活用は、気候変動の緩和だけでなく、農村の生計を改善することにもなるとまとめられています。(以下引用)

“結論として、この比較分析では、熱帯地域と亜熱帯地域の急成長樹木であるユーカリ植林と中国モミ林をそれぞれ考慮した場合、竹林は急成長樹木に匹敵するように思われる。さらに、竹の再成長能力と毎年の伐採体制に由来する炭素吸収能力により、その恩恵は生態系や地域レベルにまで及んでいるように思われる。

持続可能な管理と竹資源の適切な利用は、短期的には生態系内の炭素貯留能力を高める管理の変更を通じて、長期的には炭素を耐久性のある製品に変換することを通じて、炭素の封じ込め量を増加させることができる。

竹は世界中で何億人もの人々によって管理・利用されており、家庭での利用や河川敷の保護から収入源としての利用まで、さまざまな用途で竹に依存している。多くの竹農家は発展途上地域に住んでおり、貧困にあえいでいる。持続可能な炭素隔離ツールとしての竹の普及は、気候変動を緩和するための新たな機会を生み出すだけでなく、持続可能な竹の管理、産業、技術への投資を通じて、何百万人もの農村の生計を改善し、保護することができる。”


いかがでしたでしょうか。この研究結果から、竹の炭素吸収率は、短期間であれば早生木の炭素吸収率と同等かそれを上回ることができますが、竹が積極的に管理されている場合にのみ可能であることを示唆しています。

竹という素材は、昔から人々の暮らしの営みのなかで使われてきた素材です。放置竹林を減らし、適切に竹林を管理していくことは、担い手の課題も大きくあるものの、気候変動の緩和だけでなく、地域活性のためのひとつの手段になりうるのではないでしょうか。