「竹害」はどうして起こるのか? 日本の放置竹林の現状と課題

「竹害」はどうして起こるのか? 日本の放置竹林の現状と課題

竹は、日本各地に広く分布し、ずっと昔から私たちの暮らしの中で、さまざまなものに利用されてきました。

常緑で倒れにくく、垂直にぐんぐんと伸びる竹は、生命力を象徴するおめでたい植物のひとつとされ、お正月に飾る門松にも使われています。

そうした竹ですが、現代では生活様式の変化やプラスチックなどの代替製品、安価な輸入竹製品の増加、また生産者の高齢化などにより、高価な工芸品を除いては、日常で竹製品を見かけることが少なくなってしまいました。

今回は、日本の竹利用のこれまでと現状の課題についてまとめました。


日本の文化を育んだ竹の存在

古来より、私たちの暮らしの中で使われてきた竹。縄文時代の遺跡からも、竹を素材とした製品が出土しています。軽くて加工がしやすいことから、かごやざる、花器といった日用品や玩具としてはもちろん、茶道や華道の道具、笛や尺八といった楽器、竹刀や弓といった武道具、さらには作物の収穫に用いる背負いかごなど、農業でも漁業でも用途に合わせて竹を使っていました。

伝統的な日本家屋にも、竹はいたるところに使われてきました。土壁には芯に竹が塗りこめてあり、この土壁が寒さや暑さ、湿度などを調整していました。かたく、熱伝導率にも優れる竹は、現在でも床材など、建築用資材として用いられています。

しなやかで強く、暮らしに欠かせない植物として有用とされてきた竹。日本各地で積極的に植えられ、手入れの行き届いた竹林は、美しい日本の風景として暮らしを形づくってきたのです。


国内には、約600種類の竹がある

竹は、イネ科タケ亜科の、常緑性の多年生植物です。地下茎の節にある芽から毎年新しい芽を出し、わずか数カ月で立派な竹に成長します。1日にマダケで121cm、モウソウチクで119cm伸びたという記録があるほど成長が早く、竹の分類方法には諸説あるようですが、日本国内には約600種の竹があり、世界に目を向けると約1,200種の竹が存在するのだとか。その多様性には驚きます。

竹の寿命は、竹棹(ちくかん:幹にあたる部分)が太いほど長く、20年ほどと言われています。竹棹がぐんぐんと成長するのと同じように、地下茎の成長も早く、土壌や気候条件によって異なるものの、1年で5mも伸びたという記録があるほど。地下茎がタケノコを最もつくるのは3〜4年目で、5年目を過ぎると徐々に減っていきます。

大型種として中国から導入されたモウソウチク(妄想竹)、竹の皮に黒褐色の斑点があるマダケ(真竹・苦竹)、寒い地域でも育つハチク(淡竹)、そして中型種として柔らかく粘り強いメダケ(女竹)などがあります。

他にも、クロチク(黒竹)、ホテイチク(布袋竹)、シホウチク(四方竹)、トウチク(唐竹)、クマザサ(隈笹)、チシマザサ(千島笹)、ミヤコザサ(都笹)など。聞いたことのある竹はありましたか?クマザサは、熊笹茶としても知られていますね。


なぜ竹は使われなくなったのか?

竹が暮らしの中から姿を消していったのは、高度経済成長期。日本人の暮らしが洋風化し、プラスチックなどの代替材が台頭して、安価な輸入品が増加したことが主な要因です。

それに追い討ちをかけたのが、マダケ(真竹・苦竹)が一斉に枯れてしまったこと。加工性に優れることから良質な竹材として使われてきましたが、120年に一度花を咲かせ、そのあとはすぐに枯れてしまいます。国内はもちろん、世界中のマダケが花を付け、一気に枯れてしまったのが、ちょうど昭和40年代の高度経済成長期の真っ只中。

いくら竹の成長が早いといっても、市場に出せる竹材になるためには、多くの歳月がかかります。そのため、加工用の竹材の供給が間に合わず、代替材に取って替わられてしまったのです。

使われない竹林は管理不足で周囲の森林や里山へと侵食し、さらに整備をする担い手も高齢化。荒れた竹林は、「竹害」とも呼ばれるほど邪魔者扱いされるようになってしまいました。


なぜ放置竹林が問題なのか?「竹害」の実情

現在の日本の竹林のほとんどは、自生した竹林ではなく、人間の手によってつくられた竹林です。管理不足によって竹林が荒れて、雑草のごとく増殖してしまう現象は「竹害(ちくがい)」と呼ばれていますが、実際に、何が害となるのでしょうか。

それは、竹の繁殖力が非常に強く、広葉樹林をじわじわと浸食するというするという事実です。山は本来、ブナやナラ、クヌギといった広葉樹が深く根を張ることで山全体を守り、また良質なミネラルを含む水が蓄えられます。竹には栄養が少なく、竹自身の中に水を貯めるのだとか。竹の根はせいぜい50cmくらいの表層にしか地下茎を張らないため、山の保水力が低下します。

そして竹がぐんぐん成長することで、太陽光が周囲の雑木に届かなくなり、枯らしてしまいます。こうして雑木林は、竹藪に変わっていくのです。里山全体の植生が変わるだけでなく、根の浅い竹の地下茎によって地盤が弱くなることで、土砂崩れなどのリスクが発生するのだそう。

また、人里近い放置竹林がイノシシなど野生動物の住処になると、畑が荒らされてしまいます。例えば熊本県での農業被害は、年間5億円以上にもなるのだとか(令和元年度 野生鳥獣による農作物被害調査結果より)。こうした農業被害は、あまり知られていないかもしれません。

そして、耕作放棄地が地理的条件に恵まれないことが多いのと同じように、放置竹林は急斜面や軽トラックで入れないなどの場所にあることが多く、管理をするのに肉体的な負担がかかるという現実もあります。

竹を枯らすには、タケノコを含め、毎年全ての竹を伐採するという連年皆伐(全伐)式が昔から行われていますが、枯れるまでに早くても数年かかり、何年も続けなくてはいけないこと、そして全てを枯らせる前に中断すると、数年もすればまた竹林に戻ってしまうことから、かなり重労働であるといえそうです。

根が強く、コンクリートさえも突き破る成長力を持つとされる竹。竹林整備が追いつかない上に、1970年頃からはタケノコの輸入も増加。放置竹林は増加するばかりで竹林拡大の対策が進んでいない、というのが現状のようです。


サステナブルな素材として見直される「竹」

現在では、竹はタケノコなど食材や建材としてはもちろん、竹チップとして土壌改良剤にも使われています。その消臭効果や抗菌効果などから、医療用ガーゼや衣類など、竹の活用の可能性は広がっています。しかし、日本各地に広がる竹林に対して、使われる量はとても限定的で、竹の“使いみち”はあまりありません。

総合紙パルプメーカーの中越パルプ⼯業株式会社では、日本で唯一、日本の⽵も原料として紙をつくっています。⽇本の⽵材消費量データから比較すると、同社がその約半分を担う、日本最大の国産竹利活用企業といえそうです。使われなくなってしまった⽵に新たな価値を⾒出しただけでなく、持続的な⽵の買取は、里山や森林の保全だけでなく、地域経済に⼤きく役⽴っているようです。

また、日本各地で竹を生かした灯りのイベントも行われています。特に大分県では「竹灯り」のイベントが盛んで、例えば臼杵市では「うすき竹宵」、竹田市では「たけた 竹灯籠 竹楽」、日田市では「千年あかり」などがあります。いずれも、竹灯籠に使用した竹は、チップ等にして再利用するなど有効活用されています。

こうした地域に根ざし続いてきたお祭りの他に、忘れられた竹に再び付加価値を見出すようなプロジェクトも始まっています。2020年には、全国47都道府県+世界8カ国で竹あかりを同日に灯すプロジェクト「みんなの想火」が開催されました(2021年にも開催)。地域を超えて「自分のまちは自分で灯す」という意思を持った仲間たちがつながることで、サスティナブルなコミュニティとしての広がりを見せています。


いかがでしたでしょうか。

ちなみに竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」は、現在は中国製です。しかし、日本の竹の課題を解消するひとつの方法となるべく、いつか国内生産に切り替えたいという思いを諦めてはいません。

竹はそもそも、人間の暮らしと共存しやすく、暮らしの中でさまざまな利用価値があると有用されてきた植物。新しい手法で暮らしの中に「竹」を取り入れていきたいですね。